8月25日から約一週間ナイロビを訪問してきました。長年ケニアで保健衛生の仕事に携わっていたDr.杉下ご夫妻から「アフリカのお産の状況を改善する事に力を貸して欲しい」と言われていた事と、私自身もアフリカの方々から学びたい気持ちが重なり、今回のケニア訪問となりました。
ケニアは、助産師の教育はあるのですが法整備されていないこと、数が非常に少ないことから、都市から離れた地域ではTBA(伝統的産婆:地域でずっとお産のお手伝いをしていた方々)によるお産が好まれています。TBAはとても優しく、出産の時にずっと付き添ってくれるそうで、産婦は医療施設に行くよりも、地域で長年お産のお世話をしてきたTBAを好むそうです。
一方で、病院が出産場所から遠く離れていたり交通手段がない為に、医療施設にアクセスするのが難しい、医療者が怖いというイメージや管理的ということもあり、医療にはなかなかアクセス出来ず、どうしても妊産婦死亡率や新生児死亡率が下がりにくい現状だそうです。
そのような中、政府はコミュニティミドワイフ(助産師のダイレクトエントリーだが、看護師の資格は無い。日本でいうと准看護師扱い)の教育を始めたところです。
今回、ケニア支援に長い杉下ご夫妻が、保健省に挨拶に行く際に、日本で助産院を開業し、助産師会の理事でもある宗と産婦人科医の竹内正人先生も同行しました。そして助産師教育の中に、医療教育と共に継続ケアの概念を取り入れ、妊産婦さんに優しく寄り添う教育が必要である事をお話しさせて頂きました。
その結果、「まさに今、コミュニティミドワイフの教育体制を整えているところであり、世界銀行からも予算がついている」と、どんどん話が繋がり、次の日にはケニア政府の高官から「話が聞きたい」と呼び出され、お話を致しました。また、地元助産師会のトップとも話しをしたり、杉下ご夫妻が支援している助産院にも訪問することができました。
ケニアでは、きちんと教育された助産師がいるにもかかわらず、法整備がなされていない為、お産のお世話をしてもなかなかお金が入る仕組みがありません。素晴らしい助産院を運営している、スラム地区にあるフレモbirth centerを訪ね、また安全な地域で高所得者を対象にしている助産院eve’s mamaのルーシーさんからもお話しを聞くことができました。
スラム街にあるフレモbirth Center は、産婦さんからわずかなお金をもらうだけで、経営しています。国から出産手当金が支給されることになっていますが、実際には入金されていなとのことで、経営は国内外からの寄付によるところが多いとのことでしたが、スラム街にあっても、素晴らしい理念で経営されていました。
また高所得層をターゲットにしているルーシーさんが経営するeve’s mamaという助産院も、スラム街の助産院よりは高い値段設定ですが、ナイロビの物価が日本とさほど変わらないのに、12万円程度の金額で行っているそうです。
ルーシーさんは、「きちんと教育された助産師が継続ケアをし、寄り添ってお産をすることで、母と子の絆がしっかりでき、出産を契機に女性が人生を自信を持って歩めるようになる」「そのことを社会に広めたい。ケニアだけではなく、周辺諸国にもこの考え方と方法を広めたい」と熱く語ってくれました。
また、助産師会のトップの方達とも話しましたが、助産師が法的に認められていない事もあり、発足してからまだ2年だそうです。しかし、コミュニティミドワイフの養成の中身をどうすれば良いか模索しており、継続ケアの視点を持った教育の必要性を語り合いました。この点は、少しでもお手伝いしたいと考えています。
ケニアから学ぶ事も沢山あります。ケニアは子供たちを地域の中で育てるために、孤独
なお母さんはいない様子です。望まない妊娠という概念も少ないように感じました。
しかし婚姻制度や戸籍の制度がしっかりできていない地域もあり、子供の父親が誰かは子供の顔を見て、父親に似ているからと決めるそうです。
かなり若年の妊娠もあり、男女ともに性教育の必要性も非常に高い、とのことでした。
またケニアの助産師達は、多くの国の助産師同様に、薬を使ったり、会陰切開や吸引分娩ができます。(日本の助産師は医療行為に制限があり、産婦人科医の介入が必要となることがありますが、それゆえに助産院での分娩では「本当の意味での自然出産」が保たれているのです)
また逆子の経腟分娩は助産師のほうが医師よりも経験がある、とも話されており、私たち日本の助産師が法的には出来ないことも多くあり、そのような点もケニアの助産師から学んでみたいと感じました。
しかし継続ケアの教育や寄り添うことの大切さを学ぶカリキュラムは、ケニアにはあり
ません。日本の助産師教育では、必ず助産院で産婦に寄り添うことの大切さを学びます。
産婦に寄り添うことで、きめ細かな観察ができ、異常を早めに発見することが出来るのです。この教育は、政府の保健省の方々も非常に共感してくださり、そういった点の研修の交換が出来る仕組みを作りたいと先生方とも話し合っており、松が丘助産院でも具体的に受け入れを検討しています。
また杉下先生は、ケニアの行政改革にも力を発揮できる立場にあり、「助産師達を国が法的に位置づけるための活動」にも力を貸していきたいと考えていらっしゃいます。私も
ケニアから学ぶとともに、日本から少しでも助産師教育のお手伝いができればと思っています。